paro+paro+cafe+Take by eri / 13-mai-2002 up

ダンボールハウスアーティスト 武 盾一郎さんのお話

かつて新宿ホームレス・ダンボールハウス村で、通りすがりの人々をじっと見つめていた「新宿の左目」。その大きな左目の絵を描いたアーティストのお一人が、武盾一郎さん。新宿のダンボールハウス村や被災地で、まるで景色の一部のように、その場所の風景に溶け込んで、いろいろな作品を生み出してきた武さんのお話を、ぜひ、皆さん聞いてください。
武さんの作品の一部は「新宿西口地下道段ボールハウス絵画集」、下のバナーをクリックしてご覧になれます。


武さんのお話

僕は、絵画っていうのは、部屋の中に綺麗に飾られて堪能するだけものではなくて、もっと人の傍にあるものじゃないかと、思ってたの。それで、たまたま偶然出会ったのが、新宿西口のダンボールハウス村だった。ダンボールハウス村に出会って、絵を描いたその日―1995年8月14日―終戦記念日の1日前―は、偶然なんだけど、僕の親父の田舎の伊勢崎が、終戦直前の最後の大空襲を受けた日。敗戦間近の日本に対してアメリカが残り弾丸をばらまいたなんて言われてるけどね。アメリカってつくづくムカつくんだよなあ。

この社会って自分の望む活動をしようとすると、すんごく生きにくくなっちゃうのね。僕も新宿で都庁の人から厭がらせをされたし。するとどうしても政治的なものにブチ当たっちゃう。僕の親父は左翼だったけど、僕は、マルクスとか左翼思想とは知らないし、読んでない。でも気付いたら「左翼」ってことになっていたんだ(笑)。
僕は、感覚的左翼なんだろうなあ、左翼な方程式は持って無いけど、僕にある破壊衝動が左翼とリンクするのかもね。僕はむしろアニミズムやシャーマニズムに傾倒してると思うんです。言霊とかもののけとか好きだし。

そうそう、ダンボールハウス村で絵を描いている中で、そこ(新宿西口地下道段ボール村)に精霊がいることに気付いたんです。それは僕が生きてきてとても重要な体験だった。彼(女?)らの存在がなければあそこまで沢山の絵を描けなかったんじゃあないかなあ。彼(女?)たちは僕にとてつもないイメージを与えてくれたんです。僕は精霊がいてくれないと絵が描けないって思ったほど。だから、精霊やら言霊やらもののけやらといったものに対する興味、っていうより信仰に近いものも含まれるんだけど、それらは新宿で描いてて芽生えたんです。モノや動物や植物とも、人間と同等かそれ以上にコミュニケーションをとる事が出来るんではないのかなあって。

1996年1月24日、新宿ダンボールハウス村強制撤去のときも、僕たちはあの場にいて描いていた。新宿西口地下道はあるときから、あのクソ都庁を倒してやりたい!っていう共通の目的を持つようになる。いろんな経緯の人たちが、全く異なる思いや事情を持って吸い寄せられてきた。そして知らず知らずのうちに自然と同じ方向を目指していた、渦の様に。肩を組んで連帯してるんじゃなくって、それぞれ自分(たち)の思惑の中で精一杯で、仲良しになる訳でも無い、だけど一つの方向にエネルギーがドワーっと流れている。それは、すごくドラマチックな体験だった。


武 盾一郎さん@アトリエ
Photo by Kunio

僕は、今、毎日、共同制作者であり、恋人であるAYAさんとクロッキーをして、景色を見て、それを絵日記に描いて、今二人で制作している「月乃夢馬國」の世界を模索、制作しています。
この制作生活をなんとか維持継続させて行くのが今の僕達の最大課題です。
今はサイトだけで「月乃夢馬國」を発表してます。

満月ごとに更新するサイトです。
まだまだ試行錯誤をしてますが、僕なりに今までの体験を全てここに封入すべく格闘しています。
(インタビュアーの)ワタナベエリさんが「Webzine」でやろうとしている「新しいライフスタイル」。それは、僕達はネットワークを使って、現代日本に全くくみしない発想で、まるで独自に楽しく生き抜いてやろう、ってことなんだろうと思います。社会の尺度で見たら敗者だけど、僕達自身では極めてポジティブなんです。

それと関連するんですが、それが月乃夢馬國なんです。
実は月乃夢馬國(ツキノユマコク)の世界の発想の原点は「古事記」にあるんです。
「古事記」によるとイザナミとイザナギが最初に産んだ子供(神様が産んだんだから多分世界(或いは宇宙)だろうと僕は思ってます)はヒルコっていって「奇形児」だったんで流して捨てちゃうんですね。
2番目の子供も泡みたいなんで亡くなっちゃうんです。
そして3番目の子供が今の僕達の世界(或いは宇宙)なんですね。
で、親にカタワと認定されて捨てられた第一子なんですが、実は今も元気で生きてるんですよ。
ちょっと変な生態系を持つ世界なんですが、とにかく元気で生きぬいてるんです。
その世界はお月様を通して垣間見れるんです。
その世界が「月乃夢馬國」なんです。
「命」ってどんな形態であれ、どんな精神状態であれ恐ろしいくらい「ポジティブ」なんです。
僕は新宿や被災地で物凄くそれを体感したんです。
それを表現しようと試みてるんです。
親に捨てられようが(愛されてなかろうが)、元気に生きればいいんです。
親から(社会から)変な形と思われても、本人の中ではそれが正常で普通で自然なんです。だって本人なんだもん。で、元気に生きればいいんです。
という願いにも似た思いを絵にしようとしてるんです。
僕は「対社会警鐘型アート」言ってみれば「現代美術」に何の可能性も感じてないんです。
したたかに、まるでオリジナルに、勝手に(というか自然に)生き抜けば、それ自体が恐らく強固なメッセージとなるような気がするんです。
まだまだ未完ですが、それを少しづつかたちづくろうとしています。
果たしてそれが思い通り絵に出来るか、そしてそれが認められるかどうかは、まるで分かりません。でも、今の僕達をとらえてはなさない制作活動です。

2002年4月13日 武 盾一郎さん談 武&AYA宅にて
編集 ワタナベエリ / Webzine

ご注意!
eyedia.comは、2003年の東大五月祭トークセッション
開催予定を聞いておりません。

ichicoの感想リポートはこちら!



武盾一郎さんたちの
新宿ホームレス段ボールハウス・ペインティングは
eyedia.comギャラリーにて展示中です。



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